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おかえりなさい旅の時間。結局、また行ってきます

by 古性 のち

人生想定外なことは、否応なしに突然おきる。
良いこともあれば、当然悪いこともあるし、どちらとも言えないこともある。
そこに当てはめるとしたら、今回の日本への一時帰国は、「どちらとも言えないこと」に入るような気がする。

カンボジアを最終地点として、アジア旅を一通り満喫したわたしは、次の国の予定、ミャンマーへのチケットを破棄して日本に帰国した。 
あまりにあっさりとした決断に、自分でも驚いた。

夢だった世界一周を中断し、
わたしはなんと、好きな人に会いに帰国したのだ。

物心がつき始めた頃、みんながサッカーや、友達同士で一輪車やホッピング、縄跳びで遊ぶ中
幼いわたしのもっぱらの興味は「散歩すること」だった。
近所の子に「ねえ。あっちまで行ってみようよ」
と声をかけては、小さな町の、知らない道をひたすらに歩いていく。
見たこともないお店の看板を見つけては、宝物を見つけたように夢中で探す。
胸がドキドキして、まるで自分には大きな使命があって、もともっと先の先まで歩いていかなければならない。
そんな冒険家ストーリーに浸っては、もう疲れたよ〜と嘆く友達の手を引いて、日が暮れるまでずんずん進んでいった。

部活に明け暮れた中学を卒業し、自由な校風の高校に上がったわたしの心に飛び込んできたのが、
「世界一周」という言葉だった。
その甘美な響きに、文字通り、心が震えた。
こんな小さな町じゃない。知らない町の、知らない路地を、ただただ、歩いてみたい。
小さくともった炎はこの10何年間、1度だって消えることはなかった。
繰り返された”いつか”は私に勇気と夢をくれたし、ピリオドをつけたその後の、最初の国に降りたった時の高揚感と言ったら!
全身の鳥肌がザワザワと総立ちになるあの感覚は、本当に、何にも変えがたかった。

なのに。

「この人のこと、多分好きになってしまうなあ」 
そんな確信にも似た感情がわたしの中に生まれたのは、出会って2回目だった。
会社を辞めてフィリピンへの語学留学を控えたわたしには、当時今よりも更にいっぱい時間があって、
せっせといろんな人に、会いに出かけていた。
そんな時に、切れていた縁がふわりと繋がって出会ったのが、彼だった。
葛藤を繰り広げているわたしをよそに、涼しい顔をしている彼はと言うと、そんな気は全くないらしく。
「いやー気をつけていってきてくださいね」
なんて、のん気にケラケラ笑っていた。
子供みたいにくるくる表情が変わる彼の顔は、見ていて飽きがこなかった。
とにかく気の合った私たちは、真剣な話も、くだらない話も、
それはそれは「よくもまーそんなに話すことがあるね」と周りに呆れられてしまうくらい、よく話した。

恋するって、こんなに楽しかったっけ。
こんなに強くなれるんだっけ。
まるで初めて恋を知った少女のように、そんな言葉を繰り返しては、
気づけば、世界一周に出発する頃にその「好きな人」は、「大事な人」に変わっていて、
わたしにとって、何にも変えがたい、宝物のような存在になっていた。

遠距離は、むずかしい。
遠い昔の恋がそうであったように、どんなにコミュニケーションの幅が広がった現代だって、同じように難しい。
それはきっと、知らなくて良いことまで知ってしまう機会が増えたからなのかもしれないし、その逆なのかもしれない。
とにかく、長い時間培ってきた信頼関係もなければ、わたしには、定職もなければ、なんなら住民票だってない。
そんな得体の知れないフワフワしたものを、彼はいつまでしっかり見つめていてくれるだろうか?

いや。
信頼関係なんて、もしかしたら離れてしまったら、作ってきた期間なんて関係ないのかもしれない。

触れたい時に、触れられない。
辛い時に、そばにいない。
そんなシンプルなことが、壊れてしまう、確かな理由になる。
人間は、そんなに強くできてない。
誰だって、ひとりぼっちはさみしい。

普段は少しドライな彼が、ポツリと「1度帰ってきてほしい」と漏らした時、
わたしは迷わず、最短の日本行きのチケットを購入した。

久しぶりに会う彼との時間はとっても心地よくて、楽しくて、仕事の合間を縫って会うような、何でもない毎日が愛おしかった。
つないでいる手は温かかったし、訳もなく、無性に涙が出た。
「このままもう、旅を辞めてしまおうか」
と、何度も思った。
隣にいたい。

それでも、私は旅に出ることを決めた。

3つ、2度目の旅で、決めたことがある。

ひとつ目、私を見守ってくれている人たちの目になったつもりで、シャッターを切ること。
ふたつ目、心を込めて、素直に、噓いつわりなく、文章に残すこと。
そしてみっつ目。
わたしは自分の心に正直に、後悔ごと受け止めて進み続けること。


「何かを守るために、旅をやめてしまうなんて、それは本当にわたしがなりたかったわたしなのか?」
何度も問いかけた。
意外にも答えは、YESでも、NOでもなかった。
やめたらやめたで、そんなわたしでもいいじゃないか。
弱くても、中途半端でもいいじゃないか。

それでも。
彼とさよならをした。


しっかりと、顔をあげて。
やりとげなかったって、きっと楽観的なわたしのことだ。「それもまた人生」だなんて笑ってるんだろう。
だけれど旅だけは、世界一周だけは、最後までやり遂げる。
だってその方が、きっとカッコイイから。

おじゃまします、初めまして、インド。
ただいま。
大事なわたしの、旅の時間。


それでは。
いってきます。


古性 のち
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