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常識も非常識も、全部ひっくるめて「やばい」。愛すべき混沌の国【インド・デリー】

by 古性 のち

1時間。宿を出発してから、すでにそれだけの時間がわたし達の前に横たわっていた。 
駅にして2駅、時間にしてたった30分の距離の場所に、わたし達はまだ、スタート地点にすら立てないでいる。
立ちはだかる、壁のようなインド人の集団を目の前にして。

インドに到着したのは、日本を出発して10時間程経った夜の20:00だった。
旅再会の一カ国目として選んだインドは、特に理由はない。
強いて言えば、よく耳にする「呼ばれた」からだろうか。
3年前にも一度足を運ぼうとしたこの国に、何か強いシンパシーを感じたのだ。
「行こう」ではなくて「いかなければ」という強い何かが、わたしを包んでいた。

夜にかたむき始めた空港は、とても雑多な雰囲気が漂っていて、とにかく「混沌の国」という名前に相応しく、とんでもない数のインド人がひしめき合っていた。
右を見ても、左を見てもインド人。ピックアップにきてくれた宿の人も含め、みんなコピー&ペーストしたように、同じ顔に見える。
「また宿についたら会いましょう」
と、たまたま同じ飛行機に居合わせた男の子が、手をふり去っていった。

わたしは、ひとりぼっちでドライバーを待っていた。

怖い。ただ、ひたすらに。
こんな感覚に包まれたのは、久しぶりだ。

旅は、スポーツに似ている、と思う。
1日、1週間、練習をサボってしまえば、なかなか感覚は戻ってこない。
簡単な英語が出てこない。
握ったカバンに、余計な力がぎゅっと入ってしまう。
吐く息がうっと喉のところで詰まっている、そんな嫌な感覚を覚える。
なんでこんなに、緊張しているんだ。
インドだから、ではないと思う。

私にとって、約1ヶ月ぶりとなるこの旅は、すっかり何もかもが鈍っていたのだ。

「のぞみ?」と後ろから声をかけられた時には、奥歯をぎゅっと噛み締めていたせいか、すぐに言葉が出てこなかった。目に入った「Nozomi」の文字に、迎えにきてくれたドライバーだとわかり、ふっと心が緩む。
夜だというのに多くの人で賑わう空港前を足早に抜けて、ドアが閉まるか閉まらないかよくわからない車に乗り込む。

あらかじめ日本からブッキングしていた、今夜お世話になる宿の車だ。

ガコンっとものすごい音とともに走り出したその車の中で、やっとふーっと一息つくことができた、その瞬間。
目の前が見えないほどのスモッグで、町が覆われていた。

繋がらないケータイをぎゅっと握りしめ、スモッグの中をクラクションを鳴らしながらスレッスレを爆走する車に乗って、ひたすらに、無事にたどり着けることだけを神に祈った。

私の旅が、再びゆっくりと幕を開けた。




古性 のち
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