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可愛いのキャパオーバーが、わたしを無感にも、感情的にもさせる その1【フィンラド・ヘルシンキ】

by 古性 のち

翌朝、足取りも軽く出かけたヘルシンキの町は、雪で人はまばらなものの、
それはそれは、どこを切り取っても可愛らしかった。

思わず胸がキュンキュンしてしまいそうな、カラフルな雑貨たちも
映画の世界から飛び出してきたかのような、整頓された街並みも

なにもかもが、おとぎの世界のようだった。
なにもかもが、かわいらしすぎた。

なのにそんな夢にまでみた街中を歩くわたしの心は、驚くほどに晴れなかったのだ。

ふと立ち止まった雑貨屋の、ピカピカに磨かれたウィンドウに並ぶ、愛らしい食器とスタイリッシュな洋服たち。
だけれど、そこにうつるわたしがちっとも「可愛く」なかった。


”バックパッカーだから” ”冬服はかさばってしまうから” を理由に、わたしはこの町にお気に入りの冬服を一着もつれてこなかった。
なめらかな真っ黒なロングコートも、えんじ色のマフラーも、くるりと回ると優雅に丸く広がるスカートも、ターコイズブルーのネイルも、耳元をゆらゆらゆらすアクセサリーも。
わたしはひとつももっていなかった。

そう。わたしはなんと
この全てかわいい町に、”可愛くないわたし”がいることに、耐えられなかった。
可愛い雑貨を手に取るわたしが、ちっとも可愛くないことに、耐えられなかった。 

しょうもないことかもしれない。
だれもわたしなんか気にしていないことも、わかっている。

それでも自分のことを、自分すらも”可愛い”と思ってあげられない自分が、憧れの町にいる。
そんな些細な事実が与えるストレスは、思いの外とても大きくて
この町を少しだけ寂しく色あせさせるには、十分すぎる理由があった。


わたしはこの町に「負けた」。
滑稽な感情なのはわかっていても、わたしの中の何かは確かに「負け」を認めていた。

大丈夫、今日も可愛いよ、って鏡にむかって笑うこと。
こっぱずかしい、そんな自分だけの儀式が、わたしの人生にとって意外と、大事なことだったんだな。

可愛いトランクに、今度は可愛い服をめいっぱい詰めて、またここを訪れよう。
今度はちゃんと、”可愛いわたし”で町に受け入れてもらおう。

そして躊躇してはいれなかったあのカフェに、今度こそ足を踏み入れたい。




古性 のち
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