LOG IN

「旅と仕事」の上手な関係の作り方【ポーランド・クラクフ】

by 古性 のち

翌日目が覚めたのは、昼の12時をまわってからだった。
前の日アウシュヴィッツへ行った疲れが残っているのか、体がなんだかとても重い。
窓の外に目をやると、チラチラと白い雪が舞い始めていた。

ポーランドの京都と呼ばれる場所クラクフ。その名前にふさわしく、凛と整然とした建物が立ち並び、角にはおしゃれなカフェや雑貨店が立ち並ぶ、可愛らしいコンパクトシティだ。

ワルシャワからは列車で2時間ほどで来れるこの場所は、賑わいを見せる夏の姿とは一変して、冬の間は静かな町へと姿を変える。

この季節は雨も多く、気温は1度か2度ほど。だけれど雨がよく似合う町だから、お天気の悪い日の散歩もあまり苦ではない。

あたたかいコーヒーと、昨日買ったワッフルで簡単な朝昼ごはんを用意しながらうーんと悩む。
ポーランドでは、どうやらワッフルは朝ごはんの主役として扱われているらしくて、町を歩いていると必ず出会う。
温めなおすと、ふんわり甘い香りが部屋に漂ってきた。

今回の滞在をひとり部屋にしたのは、「ゆっくり眠りたかったから」より、「仕事がたまってきていた」からだった。
そういえばここ数日、移動が多くゆっくり机に向かう暇がなかった。
というより、思いっきりやる気の問題なのかもしれない。

ドミトリーは友達は増えるけれど、やはり仕事をするのには向かない。
そろそろやらなければ と頭の中をずっとチラついていた言葉たちが、わたしを少し中央から離れた静かな場所の、こぢんまりとした個室に導いた。

中央広場で華やかに行われているクリスマスマーケットにも行きたい。
気になっていた教会に足を伸ばしたい。
近くのカフェものぞきたい。でもあのカフェには電源がない。

むしろ今から部屋を出てしまったら、絶対に帰りは夕方以降になる。
滞在日数を指折り数えながら、チラリと外に目をやって、思い悩む。

それよりもなによりも、とにかくわたしはそろそろ仕事をしなければならない。

自分だけで仕事をする環境を作ることは思った以上に精神力を求められました。だって、ホテルで仕事をしていると、机のすぐ隣にはふかふかのベッドがあって、2分歩けばビーチまで行けるのだもの…
http://tabippo.net/member-tabi-2/

TABIPPOのルイスさんも言っていたけれど、旅先での仕事は本当に覚悟がいる。
それはあまりにも誘惑が多すぎるのに、時間が足りないからだ。

「書きたいこと」も「伝えなければいけないこと」もたくさんある。
「一緒に仕事したいひと」もたくさんいる。
だからこそ「書きながら旅をすること」を選んだはずなのに。

誰に頼まれたわけじゃない。自分で決めたことなのに。

何を切り捨てて何をひろいあげるのか。常に限られた時間の中で優先順位を決めなければいけない。
それは簡単なことなようで、とても根気がいるし、優柔不断なわたしにとっては何よりも難しいことだった。

根性のない自分に呆れては〜っとため息をついたら、ふと一昨日、雑貨屋さんで出会ったトナカイのオーナメントのことを思い出す。

飾る木もないくせに、あまりの可愛らしさと町の浮かれっぷりに流されて購入してしまった、オーナメント。

あ、そうだ。

それをおもむろに取り出して、机の上にあった観葉植物にぶら下げてみる。
朝ごはんをさっと片付け、Youtubeから ”ボサノバ クリスマスソング” を念入りに選ぶ。
昨日買ってきたポーランドケーキを切り分けて、机の上に並べてみる。
ここにあったかいコーヒーを入れなおせば、「雪を眺めて、お洒落な外国の部屋でその国のケーキを食べながら仕事をするわたし」の出来上がりだ。

ただ部屋で仕事をすることも、何かすこしだけ工夫して「今日しかできない特別な体験」に変えてあげればいい。

少しいつもの日常を「特別」にしてあげるだけで、人間けっこうすっと覚悟が決まるものだ。
まあ”旅をしながら仕事”自体、とっても特別なことのはずなのだけれど。

それでもやっぱり嬉しくも悲しくもそのことが日常になってしまうと、それだけでは物足りなくなってしまう。
人間ってわがままな生き物だ。

髪をまとめて、のっそりパソコンに向き直る。

今日はばっちり仕事しよ、と独り言をつぶやいて

チラホラと窓から降る雪を眺めながら、とろけそうな暖かさのコーヒーを少しすすった。


古性 のち
OTHER SNAPS