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わたしの旅が、ただの日常になった日その2【オーストリア・ウィーン】

by 古性 のち
「どうしたい?」と、わたしはずっと自分の心に耳を傾け続けていたけれど、ただただ、ゆっくりと日々が流れていった。
ああ。心が動かない。何をしたいのかも、わからない。
そんなわたしにとっての「特別なはずの旅」は穏やかに、ただただ、過ぎていった。
わたしの旅が、ただの日常になった日 - https://non-kosho.goat.me/3PH0bPJ8

ウィーン滞在中は、素敵な日本人夫婦のお家にお世話になった。
広くて可愛いインテリアが並ぶ家の中には、寝ても覚めても暖かいいい匂いが立ち込めていて、
とにかく美味しいご飯と優しい笑顔で日々、たくさん充電させてもらっていた。

「日曜日の早朝は、早起きして教会に行くとウィーン合唱団が無料で見れるよ」
いつも通り暖かなご飯を食べていると、そんな情報をもらった。

ウィーン少年合唱団。
「天使の歌声」と名高い、14歳までの少年達で形成された合唱団である。
普段はそれなりのチケット代を払わなければ聴けない彼らの歌声が、毎週日曜日の朝のミサだけは、無料で聴けるチャンスなのだという。

「でも姿は見れないの。朝のお祈りの合間に、彼らの声が聴こえるだけなんだけどね」

耳を傾けながら、ふんふんと頷く。
そういえば昔、”野ばら”という映画で彼らを見たことがあった。ような、なかったような。

その程度の知識を引っさげて彼らのもとに向かったのは、ふとたまたま早く目覚めたからというだけで、相変わらず気力の湧かないわたしの足は、重い。

休日の早朝だというのに、行き交う人たち思ったよりも多い。
道で楽器を広げている人もいる。

エネルギーにあふれる人たちの時間に紛れ込んでしまった後ろめたさを感じながら、冬の心地よい寒さを頬に受けながら、教会へと向かった。

ミサ開始の15分前。すでに人でいっぱいになっている列にのっそりと混じる。
「チケットは?」と尋ねられ、横に首をふると「こっちで待っててね」と無料席の列へと誘導された。

* * *

まるで不安定な空中綱渡りのよう。
右に足を踏み出そうか、左に足を踏み出そうか、それすらもやめてしまおうか。

ただただ目の前の時間にあがらうこともなく、宙ぶらりんになっている心。

わたしは寒くかじかんだ手にはーっと息を吹きかけながら、人々が嬉しそうにチケットを握りしめる姿を見ていた。


古性 のち
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