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どこまでも果てしない透明なブルー【ギリシャ・サントリーニ島】

by 古性 のち

たどり着いたその島は冬なのに晴れていて、わたしは約1ヶ月ぶりに明るい太陽を見た。
その太陽の光を優しく反射するように町中の建物が真っ白に塗られている。

ギリシャのアテネから飛行機に揺られて1時間。「絶対に行った方が良い」と言われて尋ねたのが、ギリシャのサントリーニ島だった。
「冬のサントリーニなんて何しにいくの?」と言う人も多くいたけれど、海に入ることがあまり好きではない(というより海がこわい)私にとって島の季節なんてどうでも良かったし、むしろ”人がいない”のは好都合だった。

昔からわたしは島にたいして、強烈な執着と憧れを抱いていた。
小学生からの夢は「沖縄に住むこと」だったし、23歳の冬に突然「島に住まなければ」と思い立ち、沖縄・宮古島に住み込んだこともあった。

なぜこんなに心が惹かれるのかわからない。
だけれどサントリーニ島もまた例外ではなく、降り立った瞬間に体を包み込む潮の匂いが心地よくて
冷たい冬の風を一緒に深呼吸をした。

リュックには大量の食料と食いっぱぐれた時用のお菓子、そして食パンとツナ缶を詰めてきた。
食パンとツナ缶は多くの店が閉鎖しているこの時期を回避するためではなく、「猫がとても多い島だ」と聞いていたのでご挨拶用に持ってきたもの。
(もちろん荷物チェックでこれはなんだと聞かれたし、理由を話したら愉快そうに笑ってくれた)

宿に荷物を降ろし、さっそく町へ出かける。
12月のサントリーニ島は、太陽が出ていてもだいぶ肌寒い。ダウンの上に更にウィンドブレーカーを重ねて歩き出す。

うわさ通り町中にはたくさんの猫がいて「こっちおいで」としゃがむと「ニャー」と返事が返ってくる。
みんなこの愛らしさにやられてご飯をあげてしまうんだろう。小走りに駆け寄ってきた黒猫が、グルグルとわたしの周りを回ってから、もう1度ちいさな声で「ニャー」と鳴いた。

リュックを降ろして食パンをちぎると、どこからともなく2、3匹現れて、手慣れたようにわたしにすり寄る。
その姿からは「この島で人間から餌をもらうための熟年の技」が感じられ、おかしくなって笑ってしまった。

一通りごはんを平らげると、今度は「ついてこい」と言わんばかりにわたしの前をちいさな歩幅で歩き出す。
それを慌てて追いながらこんなシーンみたことあるな、なんだっけ と思いを巡らせて迷路のような町へと足を進めた。
サントリーニ島・ティラはちいさな町にぎゅっと家がまとまっていて、細い道がいくつにも入り組む複雑なつくりをしていた。

今まで見てきたどの島とも違うはずなのに、綺麗に塗られた白と青の迷路はわたしをなぜか懐かしい気持ちにさせてくれた。

黒猫とたどり着いたのはティラの上の方の崖で、目の前には海が広がっていた。
時計に目をやると、時刻は4時半。あと1時間ほどで、夕陽の時間だ。

今日はとくにすることも決めていなかったから、わたしはその夕陽をちいさなベンチで黒猫と待つことにした。

海の音と、風の音と、たまにすれ違う観光客や地元の人の会話だけが、島を包む。
振り返るとカップルが1組同じように夕陽を待つのか、近くの石垣に座った。

「そういえば今日、クリスマスか」
独り言のようにつぶやいて、鳴らないケータイに目を落とす。心の中がシンと冷たくなりそうだったので、慌てて自分の注意を黒猫にもどした。

"旅も恋も自分の思い通りになると思うな"
散々言われた言葉が胸の奥にぐさりと刺さったまま、棘のように抜けない。

何かを選ぶということは、一方を手放すということ。
そんな当たり前のことを、わたしはまだ、本当の意味で受け入れることができなかった。

周囲にちらほら人が集まってきた頃、徐々に町が夕陽に包まれていった。

空が鮮やかなピンクにおおわれているのに、町が返す色は青い。

この色をなんて表現したら良いんだろう。

透明なのに青い。青いのに透明。

歩いていると、透き通った氷の上を歩いているような、そんな不思議な感覚を覚える。

そう。

この島全体がどこか「透明」なんだ。

隣をふと見ると、黒猫はもういなかった。
きっと夕飯のターゲットを探しに出かけたのだろう。

わたしもカメラをしまいもう1度夕陽を一瞥してから、来た道を戻ることにした。



古性 のち
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