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みえない想いの境界線と、はじまりの国- その2【バンコク・タイ】

by 古性 のち

「のっちさんですか?」
タクシーを降りてから数十分、似たような路地裏を行ったりきたりしている私を見つけてくれたのは、今夜お世話になる宿のオーナーだった。
人生2度目となる長期での海外旅。最初のステイ先は日本人がいいなと思っていたので、出発の2週間ほど前から、SNSを通じて事前に連絡をとっていた。
少し話をしながら夜道、家へと向かう。夜遅くの路地裏がきっとこわいと感じないのは、1カ国目に滞在していたフィリピンの雰囲気に、バンコクはとてもよく似ていたからだと思う。
かといってそれが油断して良い理由にはならない。ぎゅっとサブバックを握って、十分注意する。

「十分気をつけてね」と口が酸っぱくなるほど出発前に言われていたし、その言葉をきちんと大事に受け止めようと心に決めていた。心配してくれる人のために、私は自分を大事にする義務があるからだ。
決して心配をかけぬよう、細心の注意を払いながら道を歩いていく。
それでもやはり、見慣れたフィリピンの町を重ねながら、私の心は懐かしさとワクワクでいっぱいになっていた。


以前は「遠い外国」だと思っていたアジアが、私の中で着実に、近いものに変わっている。

多分それは、最初の重いハードルを、私が無理やり飛んだからなんだろう。
新しいことを始める時、人間の脳は問題を肥大化して、その1歩を踏み出せないようにするらしい。
それを振り払うことはとても体力がいるけれど、足を1歩踏み出せば、あとの10歩も100歩もスイスイと歩ける。
多分、そういうことなんだろう。アジアが私の中で、ぐっと近い存在になっていた。

そんなことを考えながらひたすら道を歩くと、小綺麗なコンドミニアムに到着した。バックパッカーにしては少しだけ贅沢なこの宿で、私はまず、旅の体制を整えることにした。
体も丈夫な方ではないし、体力がある方でもない。そしてさらには、精神だってそんなに図太くない。そんな私が自分の身を守る為には「優先順位づけ」と「譲れないもの」をきちんと決めておく必要がある。

バックパックを下ろして、すぐにノートを開く。
今日使ったお金と、換金した金額を走り書きした。

予算は100万円。決して多くはない旅の資金だ。尽きたら帰る。それが私の決めている旅の条件。
SIMカード・飛行機代・宿代・飲食代を記述して、無事到着したことを、親しい友達に連絡する。

時間は23時を回っていた。
知らないうちに力が入っていたのかもしれない。今日はとにかくどっと疲れた。

最後の力を振り絞ってシャワーをあびると、そのまま泥沼のように深い眠りについた。





古性 のち
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