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みえない想いの境界線と、はじまりの国- その4【バンコク・タイ】

by 古性 のち

一通り約5日間のバンコクを満喫して、次はどこへ行こうかと迷っていると、地図上に可愛らしい名前の島をみつけた。
Phi Phi island。日本語で ”ピピ島”。

わたしは何を調べるわけでもなく、いっぱつでこの名前のファンになってしまった。
ピピ島。有人のピピ・ドン島と無人のピピ・レイ島のふたつからなる、比較的ちいさな島。

多少距離はありそうだけれど、このままタイからマレーシアにも移動できるし、何よりこの可愛らしい名前の島に何があるのか、見てみたかった。

行き方を調べてみると、まずはバンコクからプーケットまでいかなくてはいけないらしい。飛行機で行ってもいいのだけれど、やはり少し高い。バスが出ているのを見つけたので、長距離バスを使い、陸路で移動してみることにした。

* * *バンコクのステイ先に別れを告げ、1番高い切符を買って、電車に乗る。
滞在中何度も乗った電車は、5日間の間にすっかり慣れた。
タイでは電車の中で物を食べてはいけないし、飲んでもいけない。満員電車に無理やり乗り込むのもマナー違反だから、電車の中はとても快適だ。

しかしなぜかケータイの通話はOKとされているから、ところどころで話し声が聞こえる。この感覚には慣れないな、と感じながら、わたしってジャパニーズだな、と当たり前のことを思った。

長距離バスが出ている南バスターミナルまで行かなくてはいけなくて、それがまた、結構な遠さだ。
最寄り駅がないため、途中からタクシーに乗ることになる。しかしタクシーは割高な上に、あまり長く乗りたくない(密室で知らない人と二人きり・・しかも言葉が通じない。な環境に、多分慣れないから)

電車を降りると、重い荷物をなんとか背負って進めるギリギリの位置までバスターミナルに近寄る。
陽は傾きかけていたので、思ったほど辛くはない。



どうしようか迷っていると、横をのろのろと走るタクシーが目に入ったので、小走りで近寄る。


「アイワナゴートゥーサイサーン ドゥーユーノウ?」
重い荷物に圧迫されながら、不安そうな顔つきでフロントガラス越しに話しかけてみる。

わたしの乏しい英語のスキルも問題だが、そもそもタイは英語が通じないことが少なくない。南バスターミナルがタイ語でサイサーンである、というネットの情報を信じて、話しかけてみた。
「オフコース!アバウト80バーツ(240円)」気の良さそうな運転手が笑顔で答える。

240円か。相場がわからないけれど、これくらいなら出しても良い。重い荷物を積んでなんとか乗り込むと、10分ほどで南バスターミナルに到着した。

荷物を背負い直すと、
「あっちでチケットが買えるから、いってみな」
と、運転手に教えてもらいながらチケット売り場を目指す。後ろを振り向くと、こちらにずっと手を振ってくれていた。
* * *

ショッピングモールと合体したこの施設は、予想以上に広い。
何度もぐるぐるさまよっている
「チケットだったら2Fだから」
と、掃除のおばちゃんらしき女性が、大声で遠くから教えてくれた。

タイ人ってなんでこんなに親切なんだろうか。日本で迷っている外国人に、こんなに気軽に話しかけられる日本人は、一体どれくらい存在するのだろう。


教えてもらった方向に歩いて行くと、ズラリとチケット売り場と待合の椅子が並んでいた。
たくさんの人たちが、バスに乗る準備をするため荷造りをしている。


ひとつの窓口に近づいてみると、大きくマジックで書かれた文字は、どうやら行き先が書いてあるらしい。しかし全部タイ語で、読めない。
「どこいきたいの?」
黄色の制服に身を包んだ窓口の女性が助け舟を出してくれる。
「プーケットに行きたいんです」
と伝えると、真っ赤な唇から白い歯をのぞかせながら
「もしかしてどこか島にいくの?だったらピピ島がおすすめよ!とっても良い島だから」
と教えてくれた。
チケットはあっちで買ってねと指をさすと、その方向に向かって大声で何かを伝えている。


振り向くと、同じ制服に身を包んだ女性がこっちへこい、と手招きをしていた。


「Wi-Fiなしが500バーツ。ありが900バーツ。どっちが良い?」少し考えてから、Wi-Fiの必要性を感じなかったで、500バーツのチケットを1枚購入する。
「本当にいいのね?」
となぜか念を押されながら、オレンジの紙でできたチケットを受け取った。

ここから約11時間バスに乗るわけなんだけど、出発まではあまり時間がない。ご飯も食べたいし、でも歯も磨きたいし。いろいろ迷って、ひとまず歯磨きを軽く済ませてから、寒いと噂のバスに備え、ワンピースの下にジーンズをぐいと1枚重ね着した。
とりあえず見つけたショッキングピンクのドーナツをひとつ頬張り、もうひとつをテイクアウトする。
甘すぎるドーナツは、何味かよくわからないけれど、わたしの脳内を苦いコーヒーを飲みたい欲求で、包み込んでくれた。

* * *

出発10分程前にバスを見つけた。
バスの中は想像していたよりもとても広くて、幅も大きい。隣の席のタイ人にぺこりと頭を下げて、乗り込む。
ひとつ難点を言えばトイレが見当たらないことで、このまま11時間バスが止まらなかったらどうしよう、と少し不安に思った。

後ろへのリクライニングもなかなか快適で、なぜかでかでかと書かれたFree Wi-Fiの文字を2度見しながらケータイを取り出し、無事にバスに乗ったことと、次はピピ島へ向かうことを手短に連絡する。

小さなバスの車内に、なぜか爆音のインドミュージックと、既に男性のいびきの合唱がこだましていた。
めちゃくちゃうるさいけれど、体が疲れているせいか気づけばわたしは、深くスヤスヤと眠っていた。








古性 のち
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