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そういえば私はもともと引きこもりだったっけ【ギリシャ・サントリーニ島)

by 古性 のち

体の異変に気づいたのは、地元で知り合ったニコと海にいった後だった。
バイクでブラックビーチと呼ばれる海辺から帰る途中、突然ものすごい寒気に襲われて、
ああ。これはまずいなあと心の隅で思ったときには、目の前の世界がクラクラと歪みはじめていた。

「この後僕は仕事があるから、22時にこのカフェで待ち合わせしてご飯を食べにいこう!」
と笑顔で去っていく小柄なニコを見送って、わたしはどんどん寒くなる体を抱いてダッシュで宿へと戻った。

* * *
必死に鍵を開けていると、足元からちいさく「ニャー」と声がして目線を落とす。昨晩も部屋に遊びにきた、どんぐりみたいにコロコロ丸い猫だった。

「ごめんね。風邪引いちゃったみたいなんだ」と声をかけると、一歩二歩、その場で足踏みをして
何を思ったのか、部屋にするりと入ってくる。
昨夜はドアのところでずっと戸惑っていたのに。遠回しに伝えたこのドアを開けっ放しにしたくないことを理解してくれたのか。

どんぐりは「ニャー」ともう一度鳴くと、そのままベッドの足元の方に丸まってしまった。

追い出す気力もなく、ベッドに倒れこむ。
体が熱い。頭の中でドンドンと太鼓をたたくような頭痛がする。
直感でもっと熱が上がることがわかり、ぎゅっと目をつぶる。
ニコと会うのは4時間後。時計は18時を指していた。

旅に出てから熱を出すのは2度目だった。
もともと体が強くない私は、日本にいる頃もよく熱を出していたから、慣れっこなのだけど。
それでもやっぱり、異国の町で体調が悪くなるのは、精神的にしんどい。

それに今日は24日。クリスマスイブだ。
ひとりぼっちで、異国の地で、熱と頭痛に震えている現状に、なんだか心の底から孤独な気がしてくる。

誰もいない町
真っ黒なトンネル
空っぽの遊園地
雨でできた水たまり

そんな取り止めのないイメージが、浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
熱が高いときの、合図だ。

はあ、と吐く息が、熱い。

手をうん、と水に伸ばしてみる。
「にゃっ」と短い悲鳴が足元から聴こえて、どうやら手にトンっと当たった水は、コロコロと床を転がりどんぐりにぶつかったらしい。

わたしは諦めてブルブル震える体をベッドに戻した。

こんなに体調が悪いはずなのにホッとするのは、もともとひきこもり体質なせいだろうか。
心のどこかでわたしは「体調が悪いこと」を理由に、外へ観光できない言い訳を自分にできることに、安心していた。

わたしは昔から、どちらかというと”ひきこもり体質”だった。
ネットゲームばかりして過ごした学生時代の後遺症なのか、3日連続で外出すると、熱が出てしまうような体質だった。

そんな私が毎日外出して、旅をしているのだ。
弊害が今まで起きなかっただけ、すごいと思う。

”よく頑張ってるよ。だから、すこし休憩しようよ”

そう体に誘われたような気がして、わたしは孤独な部屋も心もそのままおとなしく、その提案を受け入れることにした。

体の奥で、何かがパキリと音をたてたような、そんな気がした。







古性 のち
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