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「砂漠とラクダ」なんてベタベタな組み合わせ、もう夢か現実かよくわからない【モロッコ・サハラ砂漠】

by 古性 のち

一定のリズムを刻みながらサクサクと足元で音がする。
太陽の日差しを左手で遮りながら、右手はしっかりと目の前のサドルを握った。
ひんやりしたサドルにじっとりと、自分の汗を感じる。
暑いからなのか、緊張しているからなのか、それともその両方なのか。

わたしはどこまでもオレンジ色の砂の山を見上げながら、少し不安定なラクダの背中の上で揺れていた。

英語もできない、海外にも行ったことのなかった1年前の自分に、1年後サハラ砂漠でラクダの上にいるだなんて話したらどんな顔をするだろうか。
憧れのシチュエーションはわたしを現実と夢の狭間においてけぼりにしてしまったけれど、そんなことはおかまいなしにラクダは右へ左へとゆるやかに揺れる。

「お尻すっごい痛いね」
と前を行く友人の声が飛んできて、ふと我に帰る。ニコニコ笑いながらすごいすごい、とはしゃぐ彼女を見ていると、ああやっぱり現実なんだなと、ホッとした。

この砂漠を行くツアーに参加したのは全部で12人で、国はもちろんみんなバラバラだけれど、夢のシチュエーションにワクワクする瞳はみんな同じように見える。

相変わらず忙しいわたしの頭は、ゆっくりと進むラクダの上でもあれやこれや色々考えを巡らせていたけれど、陽の当たったオレンジと日陰の黒のコントラストに、少し夕陽が傾いた空が重なる光景を眺めていたら
いつの間にか頭の中に風が通ったように軽くなって、いろんなことがどうでもよくなってしまった。

ラクダから降りて少しひんやりとした砂に触ってみると、サラサラと音もなく指の間から滑り落ちていく。
風が砂の上を撫でてつくった模様は均一で、ゆるやかに波打ったそれは海のように見えた。

夕焼けを見ようと、みんなで砂丘を必死に登る。
柔らかい砂はわたしたちの足をいとも簡単に飲み込んで前へなかなか送ってくれないし、砂丘はとてもとても急なのだけれど、砂漠の民はそこを軽々と駆け上がっていくものだから、歓声が上がったり悲鳴が聞こえたりと、しばし静かな砂漠に賑やかな声があふれる。

「これの名前はジェラバだよ。ベルベル族の服さ」
彼が着ていた魔女のようにとんがった帽子と、足まですっぽりと隠れる長くて不思議な服が気になって名前を聞いてみると、にっこり笑って教えてくれた。
わたしが着ても彼のようには似合わないのだろうけれど、あまりにもその姿が素敵だったから、思わずわたしも欲しくなってしまった。

息を切らしながら、砂丘の上へとみんなが急ぐ。
体力のないわたしが頂上に着いた頃にはもう陽が傾いてしまっていて、あたりが薄暗く、色を変えはじめていた。

さっきまでオレンジ色をしていた砂たちが、お互いの顔も見えなくなるくらいに一斉に色を変えていく。

ゴロンと寝転んで上を見上げれば空以外なにも見えなくて、ラクダの鳴き声と、耳元にサラサラと砂が風で揺れる音が聞こえてくる。


ああなんだか、私はずいぶん遠くに来てしまったもんだなぁ。

そんなことを思いながら1番星が空に輝くまで、わたしはひたすら砂丘の上で寝転がっていた。

旅の終わりまであと、たったの10日。
急に何だか切なくなって涙がこぼれそうになるのを、必死にこらえながら
わたしはゆっくり目をつぶった。


古性 のち
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