まるで呼吸をするように旅をしていた

本当のわたしは旅になんて出たくなかった【スペインから日本へ】

by 古性 のっち

今これを、スペインからロシアに向かう飛行機の中で書いています。

ロシアまで約7時間。そこからさらに10時間ほどのフライトで、数時間後にはあっという間にもう日本。

何だか遠くまで来てしまったような、そんな途方もない気持ちでいたけれど

Googlemapで自分の旅をたどってみれば、こんな小さなPCの画面にすら収まってしまう。

そう思うと、世界は案外とっても近いもんだなぁ。

今回の旅は、私にとって、ほぼ初めての海外。

最初の国フィリピンに降り立った時は、入国の紙の書き方がわからず、
だけれど英語でのたずね方もわからず、ただただ紙を握りしめて泣きそうになっていた。

大きな荷物は重たいし、異国の空気はもわっと私に絡みついてくるしで、
海外に飛び出したことをむしろ後悔していた。

じっとりしみる手の汗も、着陸前に心臓が爆発しそうだったのも、ずっと唇を噛み締めていたのも、
その全てを今でも鮮明に覚えてる。

あの半年前、わたしの中で海外は「恐ろしい未知の場所」だった。



「世界一周に出たい」



そんなことを口にし始めたあの日から10年。わたしはその間1度も海外に出たことがなかった。

そもそも、10年も思っていたのならさっさと出ればよかったのに、わたしは何かと

「まだやりたいことがある」だの「お金がない」だのと理由をつけては、見送っていたのだ。

今にして思えば、わたしの ”世界一周がしたい” は、何も特技のない、大したことのない私が

「ちょっと他の人とは違う、面白い自分」を作りたいがための単なる言い訳。

たったそれだけだったのかもしれない。

それでも本当に「旅に出た」のは、半ばもう意地のような気もしたし

いつも言い訳ばかりしている自分にピリオドを打ちたかったのかもしれない。

だからわたしは出発前「いいね、世界一周」と言われるたびに

「本当はあんまり行きたくないんだよね」
と返してはなにそれ、と笑われていたけれど、実は本心だったんだ。

「1本筋が通っていないからいつも迷ってしまうし、ぶれるんだよ」

帰ってきたらどうするのか、と聞いてくれた君が、まだ分からないと答えるわたしに言い放った。

一本筋をまっすぐに見据えられる人間は、本当に綺麗だ。

迷いのない目と向き合うと、わたしはどうして良いかわからずに戸惑ってしまう。

今目の前にいる自分が消えてなくなってしまえと思うし、泣きたくなる。

この半年間の旅を「フラフラしている」と君は表現したけれど

私にとってこの「フラフラ」はとてもとても大きな勇気がいるものだったし

毎日が、自分との戦いだったんだよ。

人間、全員が全員そんなに強い人ばかりじゃない。とわたしは思う。

前だけを見据えて、階段を確実に登っていける人ばかりじゃない。とわたしは思う。

変わりたいと何度願っても、頭で考えたことをそのまますぐに行動にうつせる人ばかりじゃない。
とわたしは思う。

回復に時間がかかってしまうなら、大きな背伸びは疲れしまうなら、
ちいさな背伸びを少しずつ、少しずつ、すれば良いと思う。

それも「できれば」で。

わたしは今回の「できれば」に踏み出すのに10年もかかってしまったけれど、ちいさな背伸びをしたことで、今まで触れることのなかった世界に触れることができた。

その全てが可愛すぎて、思わず延泊してしまったチェコも

世界中のひとたちと新年を祝った水の都ヴェネチアでの年越しも

誰もいない、白と青のコントラストが美しかったサントリーニ島も

たくさん考えさせられた、アウシュヴィッツも

「人に与えること」を教えてくれたインドも

静かに時間がゆっくりすぎていったサハラ砂漠も

今まで出会ったことのないような景色をくれたアイスランドも

もう一度だけ戻れるのなら戻りたい、タイのピピ島も

その優しい時間全てがわたしの中の「世界」の見方を変えてくれた。

5日前、早朝のサハラ砂漠でゆらゆら揺れるラクダの背中の上で

「私はまだ、旅を続けたいのか」

とひたすら考えていた。

いろいろな考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えて繰り返し繰り返し自分に問う。

今すぐ帰りたいし、帰りたくない

旅を続けたいし、続けたくない

日本にいたいし、いたくない

そのどれもが正解だし、不正解だった。

ただひとつだけわかることは、

”中途半端にかじっても、幸せにはなれないし、後悔もできない”ということ。

右の道か左の道か選ばなければいけないとき、その場に座り込んでしまったり

真ん中の道を無理やり作ろうとしても不可能なのと一緒で

選ぶことを拒むのも、どっちも取ろうとしたところで

結局は、幸せにはなれないし、思い切れなかった分後悔もしきれない。

それはつまるところ、1番の不幸だ。

だけれどもうひとつ、わたしはわかっていることがある。

それは、”大きな背伸びは疲れしまう”こと。

だから、どちらかを取ろうとはせず、どちらも取ろうとはせず

今はそのどちらの気持ちも噛み締めて連れていってみようと思う。

そのあと、ちいさな背伸びをしてみよう。

それも「できれば」で。

この半年間、いろんな思いが消えては浮かんでいったけれど、これだけは間違いない。


「旅」は人生において最も味わい深い、最強で最高の魔法のスパイスだ。