まるで呼吸をするように旅をしていた

憧れの寝台列車に乗って【ベトナム・ホイアン】

by 古性 のっち

「あさってベトナムのホイアンで、ランタン祭りがあるんだって」 
ベトナム・ホーチミンで過ごす2日目の夜。 

フィリピン留学時代の友人、ゆいちゃんと千秋ちゃんの2人と合流したわたしは、彼女たちが探し当てたローカルの美味しそうなお店で、ベトナム風オムレツのバインセヨを頬張っていた。

ベトナムのごはんは、とにかく安くて美味しくてヘルシーで。
みんな話すことよりも食べることに夢中になってしまうから、なかなか話が前に進まない。

外は少しだけ雨が降っていたけれど、道路に面した屋根のついたテラス席でちょっとぬるいベトナムビールを勢いよくグラスに流し込む。

「ランタン祭りって、わたしめっちゃ行きたかったやつだ」
と、わたしは空芯菜を頬張りながら急いでスマホから画像を探す。

そのあまりの美しさに、彼女たちからきれーい!と歓声があがる。

ビールと美味しい食べ物を食べてご機嫌になったわたしたちは、結局ホーチミンの滞在を1日だけ縮めて、ホイアンへ向かうことになった。

ホーチミンからホイアンへは、明後日までに行くには長距離バスか、寝台列車がベストだ。

「朝焼けが綺麗らしい」
という情報を得たわたしたちは、迷わず寝台列車を選んだ。

その夜、車とバイクであふれ返るホーチミンの道路を、スリル満点のタクシーですり抜けながら駅へと向かう。
ちょっとぶっきらぼうで気性の荒そうな運転手は、たった15分のドライブの間にクラクションを100回は鳴らしていたと思う。

周りの車も、まるで鳴き声のようにクラクションを思いっきり叩きつけている。

窓の外に目をやるとなぜこのタイミングでここを掃除しようと思い立ったのか、ほこりと砂が舞い上がる道路を一生懸命に掃いているひとが目にはいった。

その一心不乱な姿はミヒャエル・エンデ著書の「モモ」に出てくる床を履き続けるベッポを思い出させた。

「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな? 
つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、
つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ。いつもただつぎのことだけをな」

夜の駅には大きな荷物を持った人たちがわんさか集まっていて、とても賑やかだった。

わたしは朝ごはん用に大きなベトナムサンドイッチ「バインミー」を買って列車に乗り込む。

こんな美味しいサンドイッチが世の中にあるのか、と感激した、いちばんベトナムで大好きな食べ物だ。

* * *

切符を係員に渡し、狭い廊下に面している4人部屋の扉をガラリと開けると、ひんやりとした空気が体を包み込む。

ちいさなテーブルと、両脇に二段ベットがふたつ。とても簡素な部屋の中は、とても冷え切っていた。

ベトナムの列車は寒いと聞いていたけれど、これほどまでとは。

中ではベトナム人のおじいさんとおばあさんが既に寝息を立てていて、さすが現地の強さを知った。

上の狭いベッドに潜り込み、頭まですっぽりと布団をかぶる。

足の指先を手でぎゅっと握ってみると、氷のように冷たい。

わたしはお願いだから眠ってくれ、と自分に言い聞かせて、その寒さから逃れたかったのだけれど
ちょうど頭上にあるクーラーはどんどんとわたしの体を冷やしていくし、
ガタガタと音を立てる電車は、どうしてもわたしの子守唄にはなってくれなかった。

* * *

ふと、目の前が明るくなってきたような気がして、我に帰る。

いつの間にかわたしは、自分の冷たい足を握りしめて眠りに落ちていたようで
目が覚めると、下の段にいたはずのおじいさんとおばあさんは、いなくなっていた。

ふと外へと目をやると、もう少しずつ明るくなりはじめていて
現れては過ぎ去っていく緑色の世界を、しばらくベッドの上から見つめていた。

「綺麗やなぁ」
隣のベッドで寝ていた千秋ちゃんがいつの間にか起きだしていて、ポツリとつぶやく。

「なんか、旅してるって感じやなぁ」
おっとりとしたその口調はゆるやかな朝になんだかぴったりで、わたしもうんうん、と頷く。

しばらく外を眺めていると、朝陽が少しずつ、わたしたちを照らしていく。

あまりの眩しさと美しさに目を細めながら、ふたりで夢中でシャッターを切った。

「何かな」

「何かな、もう結構これだけでも、ベトナム来てよかったーって思ってる」

その言葉にわたしも深く頷きながら、このベトナムの旅が素晴らしいものになるような、そんな気持ちにワクワクしていた。