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可愛いのキャパオーバーが、わたしを無感にも、感情的にもさせる その2【フィンランド・ヘルシンキ】

by 古性 のち
そう。わたしはなんとこの全てかわいい町に、”可愛くないわたし”がいることに、耐えられなかった。可愛い雑貨を手に取るわたしが、ちっとも可愛くないことに、耐えられなかった。
https://non-kosho.goat.me/3LOQQJ5a

日があまり長くないフィンランドでの毎日は、ゆったりと、だけれどあっという間に過ぎていった。

朝8時頃に目を覚まし、寝癖だらけの頭をニット帽に押し込んで、清掃員の男性と「モーニン」と挨拶を交わし(彼はいつもぺこりと頭を下げてくれる)
徒歩1分のスーパーまで走って朝ご飯を買いにいく。

ドアを開けると真っ白な世界が広がっていて、大抵空はどんより曇り空。
外はとにかく寒くて寒くて、しばらく経っていたら雪だるまかシャーベットにでもなってしまいそうだ。

なるべく風が顔に当たる面積を減らしたくて、マフラーの中に鼻までうずめる。
うつむいた先の足元では雪がジャリジャリと音をたてている。

わたしの泊まっているホステルは50人くらいが泊まれる「大型」のホステルで、1泊あたり2400円。
キッチンがついて、広いリビングがあって、部屋は8人でシェアをする。
物価の高いヘルシンキで、この設備で値段はとにかく破格だ。

同じようなバックパッカーが沢山泊まっているから、わたしのように朝近くのスーパーへ行ってご飯を調達するのがみんな日課だ。だから備え付けの冷蔵庫の中身はいつも同じような食材でいっぱいだった。

小さな丸いパンを焼いて、お気に入りのイチゴのヨーグルトを食べたら、紅茶を沸かしている間に部屋着から外着へ着替える。

着替えながら最初のうちはあそこに行こう、あのお店に行こう、と色々はしゃいでいたけれど、
ヘルシンキはさほど大きな町ではないから、お目当ての場所は最初の2日で大体行ってしまった。

暖かい紅茶をひとつはコップへ、残りは水筒に流し込んで、9時30分にはホステルを出る。
フィンランドの朝は遅いのか、この時間でもあまり人がいない。
「冬はみんなあまり外に出ないのよ」
と、昨日行ったお店のお姉さんが教えてくれた。

確かに、あまり長い時間外にいたくない。
今日の気温をちらりと確かめると、−3度と表示されていた。

映画「かもめ食堂」を観て、フィンランドに行ってみたいと思った人は多いのではないか。
かくいう、わたしもそのひとりだ。

本も映画も、どちらもとにかく大好きで「いつかフィンランドに行ってやろう」
とずっと心の中で思い続けていた。

「やりたくないことは、やらないだけなんです」
本編でサチエがさらりと言う、このセリフが潔くてかっこよくて。
きりりと背筋を伸ばしながら、好きなことをていねいに、ていねいに紡いでいく姿にとても感銘を受けた。

だからなのかなんなのか、わたしは新しい場所を無理に観光や開拓をしようとはせずに、3日目くらいから同じようなルートをたどるようになって
「あの雑貨やっぱり買おうかな」
なんてつぶやきながら、同じ雑貨屋やカフェにフラフラと足を運んでいた。

この日も例外なく、わたしは一昨日訪れたカフェに再度足を運ぶ。
メニューのフィン語が読めないから(フィンランド人は頑固なのか、英語メニューがないところが非常に多い)、前の人を覗き込んで「同じのください」と、ジェスチャーで伝える。

「人は、支えあって生きている。だからこそ自分に関わってくれる人、自分の人生に時間を使ってくれる人を、大事にしなくちゃいけない」

フィンランドの前、インドのリシケシュでジョンにひたすら言われた言葉は、カフェにいても、仕事をしていても、たびたびふと頭の中を行き来する。
わたしは暖かいカフェラテと、鮭の何か(前の人と同じと言ったら、料理もついてきてしまった)を食べながら、ボーッと思いを巡らせてみる。

”自分の人生に時間を使ってもらう” 
だなんて意識をしたことがなかったから、驚いたけれど確かにその通りで。

この27年間、いつも自分のことで精一杯だったわたしは、見返りなんか期待せずに、ひたすら誰かのために、優しくなれていたことがあったのだろうか?

そんな気持ちがその行動にリンクしたのかは定かではないけれど、わたしはふと、日本にいる友人に、絵葉書を送ってみたくなった。

頭の中にパッとムーミン柄の絵葉書と、親しい友人の顔が浮かぶ。

後ろめたさを消したかったのか、誰かにフィンランドにいることを自慢したかったのか、その時の気持ちを言葉で表現するのはむずかしい。

だけれど、わたしはそう決めた瞬間に、たっぷりのカフェラテをぐいっと飲み干した。

慣れていない、というかあまり得意ではないトラムに乗り込み、ヘルシンキ中央駅の郵便局まで向かう。
しばらく歩き回っていると”POST”の文字を見つけて、ホッとして重いドアを押した。
中は簡素だけれど広々としていて、壁にはずらりと100種類ほどの絵葉書が楽しそうに軒を連ねている。

「北欧の人はよく絵葉書を出す」
とは聞いていたけれど、こんなに種類があるなんて。

わたしは散々迷いに迷って、ムーミン柄の絵葉書やトナカイ柄、北欧のテキスタイル柄を手にとる。
全部同じ柄だって良いんだけど、あの子にはこの柄、って選びながら描きたかったから、全部違う柄にすることにした。

「こんなに出すの?」
と郵便局員に笑われながら、20枚ほどの絵葉書と、切手を購入する。
日本までは1枚、200円ほどの切手でいくそうだ。

本当は5人くらいにしようと思ったのに、あっちにも、こっちにも、と考えていたら収集がつかなくなってしまって気づけばお財布の中身は空っぽで、ちょっと笑ってしまった。

「自分の人生に時間を使ってくれる人を、大事にしなくちゃいけない」

こんなことは、もしかしたらエゴなのかもしれない。
だけれど、絵葉書ひとつ、心を込めて書くことから始めてみるのも
いつも思い切れない、わたしらしくていいじゃないか。

わたしのフィンランド滞在に「絵葉書を書いて出す」というミッションが加わった。



古性 のち
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