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ようこそ夢のようなおとぎの国その2【チェコ・プラハ】

by 古性 のち

1人旅の毎日なんて、大抵地味にすぎていく。(と思う)
みんなキラキラしたところだけ切り取るから「毎日が大冒険!」と思われがちな気がするけれど、実際はそんなことは全くない。(と思う)

少なくともわたしはそうだ。
朝起きてご飯を食べて、次の町のことを調べて、お昼寝して目が覚めたら夜。そのあと洗濯をしてもう1回寝る。なんてしょっちゅうで。

気晴らしにアニメ観て、そのまま部屋から出ないことだってしょっちゅう、ある。

チェコに到着したこの日も、例外なくそうだった。
宿探しに疲れ果てて部屋に着いた途端に眠ってしまい、気づいたときにはあたりは真っ暗になっていた。

むくりとベッドから起き上がり、ケータイを探してみる。枕元を何度か右手が通りすぎた時に、そういえばケータイは壊れてしまったんだっけ、と落胆する。

仕方なく床に転がったままのカバンからパソコンを取り出して開いてみると、17時を指していた。
ドイツとチェコの時差ってなかったんだっけな、と思いを巡らせながら検索をしようとした途端、ググーッと鈍い音でお腹が鳴る。

そういえば宿にたどり着くことばかり考えていたから、今日は昼ごはんを食べ逃していたんだっけ。

寝癖だらけの頭に深くニット帽を押し込んで、真っ赤な上着を羽織ると
散らかったままの部屋を見ないようにしながら、わたしはけだるそうに外へと出た。

ひとまず宿に背を向けて、わたしは明るい道を目指して歩き出した。
落書きだらけの壁を横目に見ながら、もしかしてこのあたりはそんなに治安がよくないんじゃないか、と少し不安になる。
ケータイを持っていればこの真っ暗な道を照らすこともできるのだけれど、あいにく持ち合わせているのは少額のチェコのお金と、宿の鍵だけだ。

どうか変な人に会いませんように、と小さくつぶやいてから、ポケットの中で拳を握る。
知らない土地で、時間も道も分からない。そんなことで、不安になってしまう。
もしこれが10年以上前、ケータイの無い時代だったらわたしはきっと、バックパッカーになんてなれなかったのかもしれない。
それか、分厚い「地球の歩き方」をヒイヒイ言いながら何冊も持ち歩いていたのかな。
そんな根性、自分には到底あるとは思えなかった。

何度かお店らしきものを見つけては、中には入らずグルグル考える。
ローカルレストランに入ってみたいけれど、外に出ているメニューはチェコ語のみで
一体何が出てくるのかが、わからないのだ。
おまけに中は暗くて見づらくて、OPENしているのか、閉まっているのかも判断がしづらい。

何度かグルグルと目の前を通ったあげく、あまりの空腹に耐えられなくなったわたしは思い切ってそのドアを開けてみることにした。

* * *

ドアは、重かったけれどゆっくりと開いた。
外から見た時とは少し違い、中は柔らかいオレンジの光で包まれている。
それに、想定していたよりもとっても広い。

奥から歩いてきた女性とパチッと目があったので、ひとりであることを告げる。
女性はけだるそうにドアから一番近い席を指さして「English?」とだけ聞いてきた。
「Yes」と答えると、ばさっと机の上に英語メニューが置かれ、そのまま足早にカウンターの中へと去っていってしまった。

メニューを開くと、豚や牛、鳥などの肉料理が目にはいる。
どうやらここは、お肉が看板メニューのお店らしい。

値段を見ながら、うーんと首をかしげる。これが高いのか安いのか、いまいちわからない。

仕方なくわたしは目に付いた、鳥肉のグリルとトマトサラダと、りんごジュースを注文してみる。

「OK」とメニューを持って下がった女性が、目の前にドンっと置いてくれたりんごジュースからは湯気がたっていて、相当面食らった。
ふわっと甘いシナモンの香りに、付け合わせのクッキー。
なるほどこれは、おやつのようなものだったのか。

* * *

料理が運ばれてくる間、わたしの手持ち無沙汰っぷりったらそれはそれはひどかった。
鳥は時間がかかるのかなかなか出てこなくて、ちびちび飲んでいたりんごジュースももう少しで空っぽだ。


ああ本でも持って来れば良かったな。とそんなくだらない事をゴチャゴチャ考えながら、真っ暗な窓に映る自分の顔を眺めてみる。

髪はボサボサだし(プリンだし)、赤い上着は擦り切れてボロボロだし、肌だって、全然ツルツルじゃない。
こんな状態でこれからこの可愛い町を歩くのかと思うと、なんだか気持ちが重くなる。
誰が見ているわけじゃない。
そんなのわかっているけれど、それはこの1ミリも可愛くない自分をはっきりと映し出す窓ガラスの前では、なんの慰めにもならなかった。

はあとため息をついた瞬間、テーブルの上にドンッと振動が走る。
目線を落とすと、ふわっふわに香りが漂ってくる、チキンが到着していた。

山盛りのバケットと、山盛りのトマトサラダも一緒にわたしを尋ねてやってきていた。
その光景を目にした瞬間、もう今まで考えていたことなんて吹っ飛んでしまって
わたしの頭の中は目の前のチキンでいっぱいになっていた。

カリカリに揚がったチキンを口にぱくりと入れた瞬間に、じゅわっと香ばしい香りがはじける。
あまりの美味しさに、ひとりでにんまりと笑ってしまう。
パンも、トマトサラダも、べらぼうに美味しい。

夢中になって食べていると、もりもり元気が湧いてくる。
ああそうか。さっきまで何となく気持ちが上がらなかったのって、お腹が空いていただけか。
そんな単純なことに気づいて、またも少し笑ってしまう。

まあ、わたしが女子力ゼロでボロボロなのには変わりはないのだけれど。

一通り食べ尽くしてお腹が膨れ上がった頃、今度こそこのタイミングだろうと、わたしは2度目のりんごジュースを大きな声でオーダーした。




古性 のち
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